大阪地方裁判所 平成7年(ヨ)1998号 決定 1995年12月01日
債権者
西村優
同
西村禎子
右両名代理人弁護士
谷田豊一
債務者
旭化成ホームズ株式会社
右代表者代表取締役
土屋友二
右代理人弁護士
坂本秀文
同
千森秀郎
同
織田貴昭
同
松本好史
主文
一 債権者らの申立てを却下する。
二 申立費用は債権者らの負担とする。
理由
第一申立て
一 債権者らが、債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、平成七年七月以降本案判決の確定に至るまで毎月二五日限り
1 債権者西村優に対し、金二〇万九二〇〇円を
2 債権者西村禎子に対し、金一四万六七〇〇円を仮に支払え。
第二当裁判所の判断
一 基礎となる事実(争いがない事実等)
1 債務者は、建築物・工作物の設計・施工・工事監理及び不動産の販売などいわゆる住宅メーカーとしての業務を行う株式会社であり、従業員寮の一つとして、茨木寮(大阪府茨木市所在、以下「本件寮」という)を設置している。
2 債権者西村禎子(以下「禎子」という)は、昭和六三年四月一四日、債務者との間で、期間を同月二一日から翌年五月一五日までとし、本件寮に寮母として住み込んで勤務する旨の嘱託雇用契約を締結し、この契約はほぼ一年ごとの期間で更新され、平成七年六月一五日まで及んでいる。
債権者西村優(以下「優」という)は、債権者禎子の夫で、本件寮に居住していたが、平成三年六月一六日、債務者との間で、期間を一年間とし、寮の管理をする旨の嘱託雇用契約を締結し、この契約は一年ごとの期間で更新され、平成七年六月一五日まで及んでいる。(書証略)
3 債務者は、平成六年一〇月二一日付け書面により、債権者らとの嘱託雇用契約を、平成七年六月一五日の満了により終了し、更新をしない旨の雇い止めの通知(以下「本件雇い止め」という)をした。(書証略)
二 争点についての当事者の主張
債権者らは、本件雇い止めは解雇にあたるところ、正当な事由がなく、解雇権の濫用として無効であると主張し、債務者は、債権者らとの嘱託雇用契約は期間を定めた契約であるから、期間の満了によって当然に終了するものであり、そうでないとしても、本件雇い止めには正当な事由があると主張する。
三 判断
疎明資料及び本件審理の全趣旨に照らすと以下の事実が一応認められる。
1 債務者と債権者らとの関係は、債務者が昭和六三年三月一八日の朝日新聞に、「当社茨木市独身寮勤務」とする寮母募集の広告を出したところ(書証略)、債権者禎子がこれに応じ、同人との間で嘱託雇用契約を締結したことに始まり、平成三年六月からは債権者優との間でも前記認定の嘱託雇用契約を締結し、これらの契約の更新については、債権者禎子との間では平成六年まで、債権者優との間では平成五年までの期間については書面が作成され、それ以後については、契約書の作成はされていないものの、債務者は嘱託として従前と同じ一年間の雇用であることを明示し、債権者らは基本的に従前と同様の労働条件で勤務を続けていることからして、債権者らの嘱託雇用契約は、いずれも平成六年六月一六日から一年間の期間を定めた契約として更新されたものといえる。
2 本件寮における債務者らの仕事の内容は、寮生への朝食の提供、風呂沸かしを毎日行うほか、共用部分の清掃、寮設備の簡易な修繕維持工事の手配及び立会い、郵便物の受取など寮運営に関する業務であるところ、債務者では従業員の居住施設について、寮母を配置し、朝食を提供する寮を廃止してワンルームマンションを賃借りする方針を定め、本件寮についてもその措置をとり、平成六年一一月末日をもって寮生はすべて退去している。
また、本件寮の建物は、賃借物件であるところ、その賃貸借契約も終了している。
なお、債務者における従業員寮の廃止は、本件寮以外の九寮に及ぶものであり、その方針とするところは最近の若い従業員の一般的傾向、債務者の業務内容などに鑑み是認しうるところである(債権者らは、債務者が旭化成工業株式会社の子会社であるのに、寮の運営形態、従業員の処遇などについて、親会社や系列会社と異なる取扱いをすることを云々するが、子会社であっても、債務者は相当の規模を有する独立の法人であることは明らかであるから、その主張は採用できない)。
これらの事実に照らすと、債権者らと債務者との嘱託雇用契約は、これまで更新が重ねられていたことを考慮しても、平成七年六月一五日の満了をもって終了したというべきである。
第三むすび
以上の次第で、債権者らの本件申立ては、被保全権利の存在について疎明がないから、その余の点について判断するまでもなく理由がないものとしていずれも却下すべきことになる。
(裁判官 井筒宏成)